そもそも90代で透析は可能?導入の判断基準と現実
90代になると、フレイル(虚弱)や複数の併存疾患、さらには認知機能低下など、さまざまな健康上のリスクが高まります。透析治療自体は年齢による一律の制限があるわけではありませんが、実際には「透析を続けるメリットがリスクや負担を上回るか」という点が判断の鍵となります。
90代における透析導入の適応:医学的基準と倫理的側面
透析導入を検討する際の医学的基準は、一般的に末期腎不全(慢性腎不全ステージ5)の状態となり、保存的治療ではコントロールできない尿毒症状があるケースです。ただ、90代の患者の場合、単に数値(eGFRの値など)だけではなく、体力や心臓・脳・肺などの機能状態、がんなど他の重篤な疾患の有無も含めて総合的に評価されます。治療で得られる延命効果がどの程度見込めるのか、本人の価値観や意思はどうかといった倫理的側面まで考慮する必要があります。
加齢による身体状況(フレイル、併存疾患、認知機能)と透析の耐容能
高齢者、とりわけ90代ではフレイルが進行していることが少なくありません。筋力や活動性が落ちることで、週に3回の通院透析や透析中の血圧低下といった負担に耐えられない場合があります。さらに、心不全や脳卒中、認知症などを併発していると、透析のスケジュール管理や通院そのものが大きな困難を伴うことがあります。
透析導入のリスク vs ベネフィット:90代特有の考慮点
90代で透析を行うメリットとしては、基本的には延命効果が挙げられます。しかし、高齢者が透析を始めた場合にどれほど寿命を延ばせるかは、個々の身体状況によってばらつきがあります。さらに、透析により体力を消耗して寝たきり状態が進行し、思うように生活の質が得られないケースもあり得ます。一方、透析をしない場合は腎機能がさらに低下していくため、症状の管理に注意が必要です。こうしたリスクとベネフィットを天秤にかけながら、本人にとっての価値観や目標を基盤に慎重な意思決定を行います。
「透析導入=延命」だけではない視点:QOLへの影響は?
高齢で体力が低下した状態で透析を導入すると、通院の往復が大きな負担になったり、透析中の低血圧などの合併症で体調不良が続くことがあります。透析を行うことで命は維持できるものの、「週に何度も通院して疲労してしまう」「自分らしい生活ができなくなる」という状態ではQOLが著しく下がる恐れもあります。90代の透析治療は「命をつなぐ」だけではなく「いかに穏やかに過ごせるか」という観点を重視することが重要です。
お医者さんに相談してみよう
腎機能の低下や透析治療について不安や疑問をお持ちの方は、まずはかかりつけ医や腎臓専門医に相談することが大切です。eGFR値の変化や体調の変化について気になることがあれば、遠慮なく医師に話してみましょう。
透析導入のタイミングや治療方法は、患者さん一人ひとりの病状や生活環境、年齢、体力などを総合的に判断して決められます。特に70代の方では、併存疾患や日常生活の状況も考慮しながら、最適な治療計画を立てることが重要です。医師は患者さんの不安や希望にも耳を傾け、透析の種類(血液透析・腹膜透析)の選択や治療スケジュールについても丁寧に説明してくれます。
もし透析治療が必要となった場合、信頼できる透析施設を選ぶことも治療成功の重要な要素です。通院のしやすさ、医療スタッフの質、設備の充実度、患者さんへのサポート体制など、様々な観点から自分に合った病院を見つけてみる。
もし透析を選択した場合:90代の透析治療と生活
90代で透析を選択する場合、血液透析(HD)・腹膜透析(PD)のいずれを選ぶか、施設の環境はどうかなど、多くの要素を検討する必要があります。以下に、90代特有の注意点や生活面への影響を示します。
血液透析(HD)の実際:通院負担、シャントトラブル、透析困難症リスク
血液透析は週3回、1回あたり4時間前後かけて血液を体外循環させる治療です。治療に通うだけでも身体的負担や時間的拘束が大きく、特に高齢者には大変です。また、血管にシャント(動静脈瘻)を作る必要があり、感染や血栓などのシャントトラブルが起こりやすくなります。加えて、透析中の急激な体液除去が負担となり、低血圧や倦怠感が強い「透析困難症」と呼ばれる状態になる場合もあるため、日々の体調管理が欠かせません。
腹膜透析(PD)の選択肢:自己管理能力、介護者の負担、感染リスク
腹膜透析は通院回数を減らしながら在宅で実施できる利点があります。血液透析に比べて循環器への負担が小さく、低血圧になりにくいというメリットがある一方、腹腔内に透析液を注入・排液する手技を毎日行わなければなりません。自己管理や手技を学ぶための教育期間も必要で、高齢者の場合は家族や介護者のサポートが不可欠です。また、腹膜炎などの感染リスクがあり、適切な衛生管理が求められます。
治療法選択における注意点:本人の体力、生活環境、介護力
血液透析か腹膜透析かを判断する上で、本人の体力や認知機能、生活環境を総合的に考慮することが大切です。寝たきりに近い場合や認知機能が低い場合は、頻繁な通院そのものが難しくなるため、在宅での腹膜透析が検討されます。ただし、周囲にサポートしてくれる人がいないと、感染管理が難しくなるケースも見受けられます。実際には血液透析を選ぶ方が多いのが現状ですが、選択前に両者の特徴をよく理解しておくことが望ましいです。
高齢者施設での透析対応について
90代の方が入所している高齢者施設によっては、近隣の透析クリニックとの提携が進んでいるケースもあります。送迎体制や医療スタッフの巡回など、施設によっては透析通院を支援している場合もあります。ただし、施設側に医療体制がなく、シャント管理や腹膜透析の補助に対応できない状況だと入所中の透析継続が難しくなることがあります。入所前の段階から施設の看護体制などを確認することが大切です。
特に注意すべき合併症(心血管系、感染症、低栄養、皮膚トラブル)とその対策
高齢者は透析中に心臓や血管への負担がかかりやすく、心不全や不整脈、シャント血栓などのリスクがあります。さらに免疫力が低下している場合、感染症(肺炎、腹膜炎など)にも注意が必要です。透析の食事制限によって十分にエネルギーを摂取できず、低栄養状態やサルコペニア(筋肉量減少)になることもあるため、栄養士の指導を受けると安心です。皮膚トラブルとしては褥瘡のリスクが高く、寝たきり気味の場合はこまめな体位変換やスキンケアが欠かせません。
食事療法:制限よりも「食べられること」「低栄養予防」を重視
透析患者の食事といえば、たんぱく質やカリウム、リン、ナトリウムの制限が一般的です。ただ、90代では過度な制限をかけすぎると食欲が落ちて低栄養につながりやすくなります。体重が減り筋力や免疫力が低下すると、感染リスクが高まり、日常生活にも支障が出てしまいます。透析施設や栄養士と相談しながら、「どれだけ食べられるか」を重視し、バランス良く食べる工夫が求められます。
日常生活でのケア:転倒予防、褥瘡予防、口腔ケア
高齢者特有の課題として、転倒や褥瘡のリスクが高いことが挙げられます。特に透析中の血圧低下や筋力低下でふらつきが起こりやすくなるため、歩行時には手すりを使うなど安全対策が必要です。褥瘡は長時間同じ姿勢でいることで発生しやすいため、定期的に体位を変えるよう心がけます。口腔ケアも重要で、誤嚥性肺炎などの感染症を予防する上でも欠かせません。
最重要視すべきQOL(生活の質)と症状緩和ケア
90代の透析治療において、最も重視されるのはQOLの向上です。身体の苦痛や精神的負担を取り除き、少しでも穏やかな時間を過ごせるよう、症状緩和や環境調整に注力することが重要です。
90代透析における治療目標:延命よりも「穏やかな時間」
若年の透析患者の場合、社会復帰や長期的な寿命延長といった目標が中心になりますが、90代では「穏やかに日々を送る」ことこそ治療の主眼になってきます。透析で過度の負担をかけるより、適度な除水と無理のないリハビリで快適さを維持する方が本人にとってメリットが大きいケースもあります。
苦痛症状(倦怠感、掻痒感、痛み、食欲不振など)の緩和ケア
透析をしている高齢者では、倦怠感、皮膚のかゆみ、関節の痛み、透析後の血圧低下に伴う脱力感などが見られます。こうした苦痛症状に対しては、腎臓内科だけでなく緩和ケアの専門家と連携することも検討されます。薬物療法の調整や皮膚ケアの強化、リラクゼーションを取り入れたケアなど、多面的なアプローチが効果的です。
精神的なケア:不安、抑うつ、せん妄への対応
透析スケジュールや合併症への不安が続くと、抑うつ状態に陥る場合があります。特に夜間のせん妄や認知機能の混乱が見られる時は、環境を整え、必要に応じて医師に相談し対策を講じます。家族や介護者とも情報共有し、コミュニケーションを密に取ることで落ち着いた時間を取り戻すことができます。
本人らしい時間を過ごすための工夫(環境調整、コミュニケーション)
高齢者にとっては、好きな音楽を聴く、お気に入りのテレビ番組を見る、友人と語らうなどの何気ない時間が生きる活力となります。透析後の疲労を考慮し、無理のないスケジュールを立てながら、本人が楽しめる活動を取り入れるとQOLが高まります。介護者と医療スタッフがうまく連携しながら環境を調整し、本人のペースを尊重することが大切です。
フレイル・サルコペニア対策:無理のない範囲での栄養・活動維持
食欲が低下している高齢者ほど、筋力が落ちてフレイルやサルコペニアが進みやすくなります。栄養サポートチームと連携し、少量でも高カロリー・高たんぱくの食事を工夫したり、簡単な筋トレや散歩などの軽い活動で下肢筋力を維持する方法が有益です。無理のない範囲で継続することで、体調を崩しにくい体作りを目指します。
透析を「しない」という選択肢:保存的腎臓療法(CKM)
透析治療が一般的になった一方、透析を導入せずに症状緩和を中心に進める「保存的腎臓療法(CKM)」が注目を集めています。90代の高齢者にとっては、透析による通院負担や低血圧リスクなどを考慮し、あえて透析を行わないという選択肢も現実的になっています。
CKM(Conservative Kidney Management)とは?基本的な考え方
CKMは腎代替療法(血液透析・腹膜透析・腎移植)を行わずに、残存腎機能を最大限活用しながら薬物療法や食事療法、症状緩和ケアを組み合わせる方法です。透析より延命効果は限定的ですが、倦怠感や痛みなど苦痛をコントロールしつつ、本人が望む生活を送れるよう支えるという位置づけです。
90代においてCKMが現実的な選択肢となる理由
90代では、透析に踏み切っても体力的・精神的な負担が大きく、思うようにQOLが改善しないケースがあります。透析通院に消耗してしまうよりは、CKMを選択して自宅や施設で穏やかに過ごし、自然な看取りを選ぶほうが本人にとってメリットが大きいと考える方も増えています。こうした判断は早期から医師や介護者を交えて話し合うことが大切です。
CKMの内容:症状緩和、栄養サポート、精神的・社会的支援
CKMでは、血液や腹膜透析を行わない代わりに、利尿剤やバインダーなど必要な薬物で尿毒症状をコントロールしつつ、口腔や栄養指導など多角的なケアを提供します。精神的な不安や苦痛へのアプローチも重視され、緩和ケアチームや地域医療・介護サービスの連携が重要です。
CKMを選択するメリット・デメリット(透析との比較)
メリットとしては、透析に伴う通院負担やシャントトラブルから解放され、自宅での静かな時間を確保できる点が挙げられます。逆にデメリットは、腎不全自体は進行していくため、長期的な延命は期待しにくいことです。ただ、90代という年齢を踏まえると、あえて積極的医療を行わず、自然な経過を重視する選択に一定の意義があります。
CKMを選択した場合の療養場所(自宅、施設、病院)と看取り
CKMでは、自宅療養を選ぶ方が多い一方、状態が悪化すれば入院して点滴や緩和ケアを受けることもあります。日常的なサポートが必要な場合は、介護施設や有料老人ホームを利用する方もいます。看取りの場としてどのような場所を選びたいか、家族とよく話し合っておくとスムーズです。
CKMを選ぶための条件と、家族・医療チームとの合意形成
CKMを選ぶには、患者本人の意思をしっかり確認し、医師や看護師、家族がその希望を共有していることが前提になります。認知機能が低下して意思疎通が難しい場合は、本人のこれまでの価値観をもとに代理意思決定を行います。こうした合意形成には、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)が大きな役割を果たします。
後悔しないための意思決定:ACP(アドバンス・ケア・プランニング)
ACPは、高齢者が将来の医療やケアについて前もって考え、家族や医療者との間で意思や希望を共有するプロセスです。90代での透析導入を検討する際、延命をどこまで行うか、治療中止を検討するタイミングなど、さまざまな場面でACPが活用されます。
なぜ90代の透析でACPが不可欠なのか
90代のケースでは、残された時間が限られていることが多く、透析の効果よりも負担が勝ってしまう可能性もあります。十分に話し合わずに透析を開始した結果、本人や家族が「こんなはずじゃなかった」と後悔することを防ぐためにも、早期からACPに取り組むことが大切です。
ACPとは:本人の価値観や希望を共有し、将来のケア計画を立てるプロセス
ACPでは、本人と家族、医療者が一堂に会して話し合いを重ねます。透析を導入するかしないかだけでなく、万が一病状が進行した時の対応、心肺停止時の蘇生措置、最終的な看取りの場所なども検討します。本人の意思や価値観をしっかり聞き取り、文書化して共有することで、のちに認知機能が低下した場合でも本人の意思に即したケアが行われやすくなります。
話し合うべき内容:治療の目標、透析の導入・継続・中止、延命措置、療養場所など
特に重要なのは、90代の方自身が「どんな人生の締めくくりを望むか」を確認し、その希望を中心に治療計画を立てることです。透析を一度開始したとしても、状態が悪化すれば中止を検討する選択肢もあり得ます。延命措置としての人工呼吸器や経管栄養をどう考えるか、どこで看取りたいかなども具体的に話し合うのが理想です。
本人の意思確認が難しい場合の対応(推定意思、代理意思決定)
認知症などで本人の意思表示が難しくなっている場合、かつて本人が話していた希望や、周囲が見てきた価値観を参考に「推定意思」を推し量ります。家族と医療チームが話し合い、できる限り本人の考えに近い方向で治療方針を決めていきます。日本では、エンディングノートやリビングウィルを用意しておくことも推奨されています。
医療・介護チームとの連携による意思決定支援
ACPは腎臓内科医だけでなく、看護師、薬剤師、ソーシャルワーカー、ケアマネジャー、緩和ケアの専門職など、多職種が関わるとより充実します。情報を多角的に集約し、本人や家族の疑問に応じて必要な専門家が説明することで、納得感のある意思決定につながりやすくなります。
「人生会議」の重要性
日本の厚生労働省は、ACPをより身近に進める取り組みとして「人生会議」という愛称を用いています。90代だからこそ、先延ばしせずに今のうちから人生の最終段階について考える意義が大きいといえます。人生会議の場を定期的に持つことで、状況の変化に合わせた話し合いが可能です。
経済的な側面:医療費と介護のサポート体制
90代の方と家族にとって、透析導入やCKMの選択には経済的負担も大きな問題となります。日本にはさまざまな医療費助成制度があり、介護保険サービスも活用できます。
透析またはCKMにかかる費用と医療費助成制度(特定疾病、高額療養費)
透析治療は医療保険上「特定疾病」に指定され、申請によって自己負担が一定額まで軽減されます。所得に応じた上限額が設定されているため、実際には透析費用が数十万円かかっても自己負担は月1~2万円程度で済むケースが多いです。高額療養費制度の活用も含め、手続きはソーシャルワーカーに相談して進めるとスムーズです。
CKMを選択する場合は、透析に比べれば直接の治療費は安くなる傾向にあります。主に外来受診や薬剤費、在宅医療などが中心になりますが、症状が進行して入院した場合はその費用がかかる点に留意します。
身体障害者手帳、介護保険サービスの最大限の活用
腎臓機能障害で身体障害者手帳を取得できるケースもあり、さまざまな自治体サービスが受けられる可能性があります。要介護認定を受ければ、デイサービス、訪問看護、訪問介護など介護保険の支援を利用しながら自宅や施設で生活することができます。医療費助成制度や手帳制度との併用で経済面・生活面の不安を減らせます。
施設入所や在宅療養にかかる費用
介護老人保健施設や特別養護老人ホームへの入所費用は、施設の種類や要介護度で異なります。有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅の場合は、民間施設であれば月額数十万円かかることもあります。経済状況に応じてどのような施設が利用できるか、ケアマネジャーやソーシャルワーカーと一緒に下調べを行うのがおすすめです。
経済的な不安に関する相談窓口
費用面で不安がある場合は、病院の医療ソーシャルワーカーや自治体の保健福祉センターに相談できます。生活保護の申請や住宅改修費の助成など、制度を広く検討することも視野に入れると良いでしょう。経済的な問題を先送りすると治療がスムーズに進まなくなるため、早めの相談が重要です。
ご家族ができること:支え方と心構え
90代での透析治療やCKMを選ぶ上で、家族の支えは欠かせません。本人の意思を最大限尊重しながら、周囲と連携していく心構えが大切です。
本人の意思を最大限に尊重する姿勢
透析を続けるかどうか、CKMに切り替えるかなどは、医療者が決めることではなく本人と家族が協力して決めることです。家族は、本人の希望を知る機会を大事にし、医療者との話し合いの場でそれを伝えます。たとえ寝たきりや認知症であっても、過去の言動や価値観を思い出して「推定意思」を尊重する姿勢が基本になります。
変化に気づき、医療・介護チームと連携する役割
家族は日常の小さな変化に気づきやすい存在です。食欲が落ちている、浮腫がひどくなってきた、会話に意識の混濁が見られるなど、少しでも異常を感じたら早めに医療・介護チームに連絡します。適切な対応を迅速に行うことで大事に至らずに済むことが少なくありません。
日常生活のサポートと精神的な支え
通院や食事制限のサポート、日常的な動作の手伝いなど、家族が直接関わる部分は多岐にわたります。特に腹膜透析の場合は交換手技のサポートが必要なこともあります。日々の介助に加え、話し相手となるなど、精神的なケアも重要です。
介護者の健康管理と負担軽減策(レスパイトケア、相談)
家族が介護する際は、頑張りすぎて心身を壊してしまうことがないように注意します。ときにはショートステイなどレスパイトケアを利用して休息を取り、息抜きの時間を確保することも必要です。地域包括支援センターや介護相談窓口を活用し、ケアマネジャーに困りごとを相談すると解決策が見つかる場合があります。
看取り期における心構えとグリーフケア
透析治療の継続中、あるいはCKMを選んだ場合も、最終的に看取りの時期が訪れることがあります。どのように見送りたいか、どんな場所で最期を過ごしたいかは、ACPの中でも大切なテーマです。亡くなった後も家族には深い悲しみが残るため、グリーフケアとして、心のケアを受けられる体制を意識することも大切です。
90代・疾患別の余命データ
透析患者の余命は年齢や原因疾患によって大きく変動します。年齢が若いほど合併症が少なく、体力があるため、長期間の透析継続が可能な場合が多い一方、高齢になるほど合併症のリスクや体力の低下などから、平均余命は短くなる傾向があります。 以下は、過去の統計に基づき、透析導入後の男性・女性の平均余命と同年代の一般人口の平均余命を比較した一例です。
| 年齢 | 透析患者 平均余命(男性) | 一般人口 平均余命(男性) | 透析患者 平均余命(女性) | 一般人口 平均余命(女性) |
|---|
| 90歳 | 2.33 年 | 4.26 年 | 2.57 年 | 5.57 年 |
※引用:
2003年 (平成15年)男性 透析患者 平均余命(生命表)
2003年 (平成15年)女性 透析患者 平均余命(生命表)
透析患者数の推移
透析患者数は年々増加しており、現在では、約35万人まで増加しています。
日本透析医学会の最新の統計調査によると、2023年末の慢性透析患者総数は343,508人となっています。
これは前年と比較して3,966人の減少(1.2%減)を示しています。
また、2022年末時点の患者数は347,474人で、2021年末から2,226人減少(0.6%減)しました。
透析患者の男女比
日本透析医学会の最新の統計調査によると、透析患者数の男女比は、男性が66.9%、女性が33.1%というデータでした。
この男女比率の偏りは長年継続しており、近年も同様の傾向が見られています。
透析患者の年齢別傾向
透析患者の全体の平均年齢は 70.09歳となっています。
平均年齢は年々増加傾向で、最も割合が高い年齢層は男性で 70~74 歳,女性で 75~79 歳。
また 65 歳未満の患者数は 2012 年から減少し,70 歳未満の患者数は 2017 年から減少傾向です。
75 歳未満も 2021 年から減少しており,75 歳以上の患者数が増加している状況です。
透析患者の年齢構成を男女別にみると、興味深い違いが現れます。
- 男性:70〜74歳の年齢層が最も多い
- 女性:75〜79歳、次いで80〜84歳の年齢層が多い
ここからもわかる通り、女性は男性より約10歳高い年齢で透析導入する傾向がみられます。
引用:日本透析医学会 統計調査委員会「わが国の慢性透析療法の現況(2023年12月31日現在)」
人工透析と余命に関するよくある質問と回答
人工透析 余命 Q&A
1人工透析を始めると余命はどのくらいですか?
最新公表データ例(日本透析医学会2021年)| 年齢 | 男性透析患者 平均余命 | 女性透析患者 平均余命 | 一般男性 平均余命 | 一般女性 平均余命 |
|---|
| 60歳 | 12.3年 | 14.3年 | 24.2年 | 29.5年 |
| 70歳 | 7.1年 | 8.6年 | 15.2年 | 18.8年 |
| 80歳 | 3.6年 | 4.5年 | 7.7年 | 10.4年 |
透析患者の平均余命は一般人口と比べて短いですが、医療の進歩で年々延伸しています。合併症予防や生活習慣管理で予後は変わります。
出典: 東京新橋透析クリニック
2透析治療の回数や時間は余命に影響しますか?
透析回数や時間が多いほど体内老廃物の除去が進み、心不全や合併症リスクが減少し、予後が改善する傾向があります。週3回・4時間が標準ですが、毎日短時間など頻回透析ほど生存率が高い報告もあります。日本では診療報酬や通院負担から週3回が主流です。
3透析患者の主な死亡原因は何ですか?
- 1位:心不全、2位:感染症、3位:悪性腫瘍、4位:脳血管障害
- 透析患者の死亡原因の3割以上は心血管疾患です。栄養管理、規則的な運動、感染対策が重要です。
4どうすれば透析患者は長生きできますか?
- 透析スケジュールを遵守し合併症を早めに予防
- バランスの良い食事と水分摂取制限
- 禁煙・適度な運動・体重管理
- 高血圧・糖尿病・貧血・感染症管理、主治医と頻繁に相談
5腹膜透析と血液透析で余命や暮らしに違いはありますか?
- 主な余命に大きな差はありません。腹膜透析は在宅実施で生活の自由度が高い利点あり。
- 高齢・合併症やシャント問題がある人などは選択肢として腹膜透析が適する場合もありますが、感染症(腹膜炎)が課題となることも。
6高齢で透析を始めた場合の余命は?
80歳で人工透析を導入した場合、男性で平均4.8年、女性で5.6年程度と報告されていますが、体力や基礎疾患、生活の質によって個人差があります。高齢者の場合、日々の生活の自立度や意思も重要視されます。
7透析中の食事制限は余命や健康維持に影響しますか?
はい。塩分、カリウム、リンなどの制限を守ることで、高血圧や心不全、透析効率の維持、骨粗しょう症などを防ぎ、健康寿命を延ばすことにつながります。
8透析患者の生活の質(QOL)を充実させるためには?
- 無理のない趣味や社会活動、交流の継続
- 十分な睡眠、ストレスケア
- 快適な透析環境・ケアスタッフとの信頼関係構築
9透析をせず保存的治療を選んだ場合の余命は?
保存的治療(腎不全末期でも透析をしない場合)は一般的に余命は短くなる傾向ですが、症状緩和やご本人の望む生活の質に配慮した選択も尊重されます。具体的な余命は年齢・体力・基礎疾患状況によって大きく異なります。
10透析患者の家族はどのようにサポートすれば良い?
- 通院や食事管理のサポート、生活リズムへの理解
- 心身の不調を早期に気づき医療者へ相談
- 本人の自立や尊厳を重んじた接し方
- 介護者自身も無理せず医療・介護専門職への積極的な相談
まとめ:90代の腎不全と向き合うということ - 最善の選択のために
90代という年齢で透析治療を導入するか否かは、まさに人生の大きな岐路といえます。一般的には「透析=延命」というイメージが先行しがちですが、高齢であればあるほど、透析によりどの程度QOLが維持できるか、どのような負担があるかが重視されます。透析をすることで得られる生きがいや希望がある一方、通院や合併症リスクによって体力が削られてしまい、本人も家族も疲弊する可能性があるのです。
一方で、保存的腎臓療法(CKM)という「透析をしない選択」は、患者が望む生活を最後まで維持するためのアプローチとして大いに検討されるようになっています。腎不全の進行に伴う症状を緩和しながら、穏やかに人生の終末期を迎える道です。
これらの選択肢に正解はありません。最も重要なのは、本人の価値観や希望を尊重し、家族や医療チームと「ACP(アドバンス・ケア・プランニング)」を十分に行いながら決めることです。経済的な問題や介護体制の問題も含め、多職種チームと連携して情報を収集し、公的支援制度を活用すれば、90代の高齢者でも安心して治療やケアを受けられる可能性があります。
「延命」か「QOL優先」かという二項対立だけでなく、本人にとっての満足度や暮らしの質を考えた選択こそが90代の透析治療の要となるでしょう。今後も超高齢社会が進む中で、よりきめ細やかな意思決定支援や緩和ケアが求められています。本人と家族が納得できる形で最終的な方針を決め、心穏やかに日々を送れることが理想といえます。